2014/09/15

推進・教育者に知っておいて欲しい品質工学のハードル

品質工「学」そのものを研究している人は別として、品質を良くしたいとか、効率よく設計したいとか、そういう実務的な技術者にとっては品質工学(パラメータ設計やMTシステムなど)は手段の1つである。社内で設計や開発のコンサルをやっていても、研究会やセミナーに来ている方を見ても切にそう感じる。

世の中の品質工学の「入門書」「入門セミナー」と称するものにおいても、「用語」「理念」「数理」の点でなかなかハードルの高いものが多いのように感じる(長谷部さんのような非常にコミュニケーション能力の高い良書もあるにはあるのだが)。

ハードル1:「用語」
品質工「学」における用語の多用。ほかの投稿にも書いたのでここでは詳しく書かないが、機能の定義や用語(基本機能と目的)が理解を妨げているケースが多い(他の分野との同音異義語もある)。また「誤差因子」もわかりにくい。いわゆる「(偶然)誤差」とは違うのだから、「ノイズ因子」と言ったほうがわかりやすいし誤解も少ない。また、機能やノイズ因子をどのように抽出、考えていけばよいのかを体系立てて説明しているものも少ない。

ハードル2:「理念」
品質工学の崇高な理念(社会的損失の最小化、自由の総和の拡大、世の中にない新機能の創出、交互作用を極小にした設計など)と、日常業務の開発設計との乖離。そのような理念を必要とするような技術開発も中にはあるだろうし、そちらを進めていくのが本来の品質工学であろうが、実際の事例を見てみると95%以上は、現行の製品(機能)に対する最適化(改善)、それに業務の効率化である。そのために必要なツールを洗練させて、それらを有効に使いこなすことが大切である。そのほうが理念を振りかざすよりもより速く社会の生産性を高め、ひいては品質工学の認知度や評価を高めることになると考えている。損失関数も、それを実態の経理指標とリンクさせるのはもうしばらく後でもよい(あるいは、もっと議論が必要である)。

ハードル3:「数理」
これもエネルギー比型SN比のところでかなり述べたことであるが、忙しい技術者が品質工学を実務で使用したい場合に、期待値、自由度、純変動、線形式などの数理の理解が必要であろうか。数理に強いコンサルタントはそこを強調しがちである。SN比で大事なのは、SとNの中身(すなわち機能の定義とノイズ因子の定義という技術的な部分)のはずだが、従来のSN比の議論展開は、実務者にとっては衒学的である。SN比の計算の部分、直交表、要因効果などの大部分はExcelツールに任せられる。技術者としてはそのようなデータや解析結果を「どう読むのか」「どう考察するのか」「どう行動につなげるのか」がより重要である。

 このハードルをなんとか乗り越えて欲しく、なんとか「行動につながるアドバイス」をと、セミナーや講演などでは説明方法やツールの提供などで工夫をこらしている。しかしほぼ毎回「そうだったのか」「これならやれそうです」と目から鱗を落としていただくのは嬉しいのだが、逆に言えばそれほど苦労している方が多いということである。

 技術者にとってより重要なのは、改善のためのアイデア(制御因子)である。それを考えるのが技術者の仕事である。大きな効果がある制御因子であれば、評価方法の違いでそれを見落とすことはほとんどない。

 「用語」に惑わされると前に進めない。「理念」にこだわりすぎても成果がでない。「数理」にとまどうと技術が見えなくなる。品質工学は諸刃の剣である。迷いの森に入らないように注意してほしい(迷う前に入り口付近から出て行く人のほうが多いのだが)。

長くなったので、また別の機会にとりあげる。

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