2011/10/01

【今日の言葉097】

現存の理論系に都合の悪いと思われるような事実が観察されても、そのことがそのまま、旧来の理論系の転覆に直接連なることはほとんどなく、たかだか、その多少の手直しで済まされてしまうことが多い。(中略)新しい理論体系を樹立するという営みは、どのような事実が観察されたか、ということとは直接関係をもたないような形で起こることが多い。

村上陽一郎「科学・哲学・信仰」より

超光速かもしれないニュートリノが発見されても、すぐさま論理系の転覆につながらないのはこのため(もちろん計測精度の問題が残っていることもある)。
物理学も品質工学も、きわめて多くの理論や原理が組み合わされた複合ネットワークであることは同じで、観察事実はこのような理論ネットワークとの位置関係によって、意味づけられることになる。つまり、「観察事実の意味」は、人間の側の作り上げ作業に依存している。
その意味で本書では「理論を打ち倒すのは事実ではなくて理論である」と結論している。

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