2006/02/09

自動化ツールの功罪

 今日、来月発売されるというタグチメソッドの自動化ツールのデモに立ち会った。会社名は伏せておく。この会社の本社は米国で、もとGM社のエンジニアが創設した会社だそうだ。
 紹介されたツールは、今回新たにタグチメソッドの解析機能を実装した新製品である。いかにも米国人が考えそうな「タグチメソッド」のツールである。日本の「品質工学」の定義と、米国人が言う「タグチメソッド」ではかなり内容が違うのだが、このツールはまさに、米国人がタグチメソッドと言っているところのものを具現化したシステムと言ってよいようだ。

 CAEとの連成で割付けやCAE実験の自動化、要因効果図の自動作成などが主な機能で、要はエンジニアが頭を使わなくてもできる部分をできるだけ自動化したものと考えると分かりやすい。米国で、直交表を使ったパラメータ設計のことをタグチメソッドと呼んでいるのと同様、このツールもそれを自動化したことを売りにしている。

 このようなツールは一定の作業効率化の役には立つだろう。うまく使えば時間が儲かるのも間違いはなさそうだ。自動化されている部分が実際にネックになっているようなCAEのオペレータには朗報で、年間200万円のライセンス料は、疲れも知らず、決して指示に対して間違えないオペレータを時給1000円で1年雇っていると思えば安いのかもしれない。

 しかし、説明を聞けば聞くほどある不安が募ってきた。このようなツールが出てくることによって、これまで、いろんな意味で一歩引いていた技術者が、安易に品質工学(あえてタグチメソッドとは言わない)が使えるようになると考えてしまわないだろうか。設計パラメータをたくさん入れて、品質特性で多数の設計をじゃんじゃん自動計算する。こういうものが品質工学だと思われることが非常にこわいのである。「こういうのが欲しかったんだよ」と安易に始める人が出ないことを切に祈るのだが、このようなツールを使って正しく品質工学で成果を出すには、よほど良く分かっている人でないと、品質工学の本質にたどりつけないまま、失敗して終わってしまうことになるだろう。

 このツールは頭を使わなくて良いところを自動化してくれているのであって、実験の再現性まで保証してくれているわけではない。本当に難しいのは人間が判断する部分、すなわち機能の表現であったり、ノイズの選択であったり、制御因子の水準の決め方(交互作用が出ないように)などである。この部分についてはツールは無力である。

 そしてもう1つ発見があった。常々、品質工学はツールではない、と言われているが、このような正真正銘のツールを目の当たりにすると、逆にこのようなツールにないもの(できないもの)が何かを考えることによって、品質工学がツールでないことが明確に見えてくるのである。どうすれば再現性のよい実験ができるかを考える部分や、それ以前のシステムのアイデアの部分、これは人間様にしかできない、高度な技術的なナレッジワーキングであって、ここにこそ技術者のオリジナリティーが発揮されるところなのである。

 2時間のデモであったが、反面教師としてみれば、このようなことが再認識された次第である。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

つるぞうさん
お久しぶりですがあちこち動き回っているようで感心です。
自動化の問題と品質工学との関連は面白いテーマになりそうですね。品質工学の機関紙に投稿されたらいかがですか。
品質工学に対する誤解と偏見は今に始まったことではないですが困ったことです。
まあ好いじゃないですか。人間が考えることは無限ですから大目に見ていきましょう。
ハードのSN比だけでなく、MT法の問題でもそうですが、問題解決や原因追求に使われる例が多く出てきましたが、大変喜ばしいことだと思います。目的を追求する課題解決型の研究は勿論大切ですが、いずれにしても問題の本質追及の部分はコンピュータではできないのですからそこで技術者や企業の格差が生まれるのです。設計問題で自動化できるところはどんどん進めて技術者しかできない部分を研ぎ澄ますことが大切ですね。

つるぞう さんのコメント...

kazz先生
いつもありがとうございます。きまぐれな日記に毛が生えたようなBlogにコメントをいただき恐縮です。
さて06年度は勝負の年になりそうです。弊社のFA事業を一層盛り上げて生きたい所存です。
「日経ものづくり」3月号に弊社のFA事業の特集があるようです。
品質工学の成果が出る前での特集ですが、よろしければごらんください。