2006/02/19

長谷部光雄「ベーシックタグチメソッド」 レビュー

 品質工学の入門書ということで、長谷部光雄氏の「ベーシックタグチメソッド」が発刊された。
紀伊国屋書店で立ち読みで斜め読みしたときにいずれ買おうと思っていたのだが、幸い参加している研究会での配布があったので、入門者・初心者への教育を行う立場として読み込んでみた。

 これは「やられた」の一言である。最近でこそいろんな品質工学の入門書や解説が出版されているが、それでも全くの初心者向けでそこそこ体系的にまとまっているものとなると、これと言ったものがなかったので、いずれ自分で書こうかと思っていたのである(もちろん社内向けであるが)。

 これまで、社内の講座で入門書として薦めていたのは(田口博士のものではなく恐縮ではあるが)、管理職を含めた一般向けには、上野憲造氏の「機能性評価による機械設計」の前半の解説編と、技術者向けには立林和夫氏の「入門タグチメソッド」である。この2冊は非常に品質工学の考え方の要点がまとまっており、入門向けにぴったりということで、社内で買いこんで配り歩いていたのである。

 そこでこの「ベーシックタグチメソッド」である。パラメータ設計に入る前の機能性やノイズの考え方を、非常に丁寧にしかも面白いたとえを活用して説明してくれている。「入門タグチメソッド」では最初にエンジニヤードシステムの説明から入るのであるが、文系や実務経験のない新人などいわゆる技術的な概念がない人には少し難しいのかもしれない。ライト兄弟やガウディなどの歴史上の偉人の考え方を引いて、技術に対するものの考え方を説くコラムも工夫がなされており楽しく読める。

 また個人的には2つの話が特にためになった。1つは「寿命」の分布に関する話である。機能性と寿命の対応の話は、概念では理解できてもなぜそうなのかは説明しにくいものである。本書では理想寿命(ノーストレスの時の限界の寿命)という概念を持ち出し、そこからのばらつきを考えるので、寿命に関しては若い方(短命な方)にしか分布が広がらず、機能性の改善によって分布が理想寿命に近づくので平均寿命も高くなるという説明は説得力を感じた。もう1つは、評価の方法の妥当性を考える上で、自分が新薬の被験者になる場合を想定し、繰り返しを多く取らなくてもたくさんのノイズを調合して評価するほうが安心である。お客の立場になって考えるというのは、自分の生命や大きな損害までを想定したたとえで考えないと考え方が実感できない、というような話が面白く納得もした。

 他にも示唆に富む話が多く、筆者の見識の深さを感じさせるものであった。今後、社内教育で初心者に説明してゆく際の良い参考になることを確信した。次回(早速明日2/20であるが)の教育では、入門者用の推薦図書として本書をイチオシするつもりである。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

つるぞうさん
長谷部さんが2冊目を出されました。
本の名前は「技術にも品質がある」
ー品質工学が生む革新的技術開発力ー
というタイトルです。
この本は経営者や管理者を対象にしたもので
前著よりも更に面白い本です。
先日のフォーラムのときに彼から直に贈呈さ
れたものです。
NHKの「プロジェクトX」と「ためして合
点」の両者を比較してTMを解説していること
や、明治の軍人と昭和の軍人を比較して戦略
と戦術の違いを説明しています。
この本は品質工学を知らない人にも理解を深
めて貰うことを狙った好著です。