2009/02/16

ヒーローが活躍しない職場


 品質工学をやらない(やれない)人からはよく「忙しいので直交表実験をやる暇が ない」「性能を満足するたけで忙しいのに、品質のことは品証部門でやれないのか」 などを理由に、推進側の言うことになかなか取り合ってもらえないことが多い。個人に割り振られた仕事の量を考えればそうれはそうなのかもしれない。しかし「忙し い」と言っている人はそれを誇っているようにも見える。忙しい(busy)とは「必要な ことを行う時間がなく、心が亡くなった状態」ということで、誇るべきことではない。

 本当は技術者や管理者の仕事の生産性を上げないといけないのであるが、「忙し さ」が仕事だと思っている人にとっては、そのつど発生する問題を1つ1つに自分の腕力で行 う(つまりドラッカーいわくヒーローが活躍する)ことが仕事になっている。もちろんついてしまった火は消さないといけないし、自分の仕事はこなさなければならないというのは必要条件ではあるが、生産性の悪い組織はそのことだけに翻弄されているように見える(もちろんこれを個々人の責任に帰するのは酷というものだろう)。

 「品質工学を使用する」と聞くと1つ1つの問題に対して直交表を使用しようとす るので「忙しくてできない」と思ってしまうのである。忙しいことそのものは、本質的な問題ではない。大切なのは「明日を作るためのテーマ」の選び方と、それに振り向けるリソースのマネジメントであると今更ながらに思う。さもないと、品質工学は 「直交実験を1つ1つの問題に適用できる暇な人の道楽」と捉えらえられかねないし、いつまでも品質工学の真意を理解してもらえないだろう。

 これは品質工学を推進する側も、自戒すべきことだ。個別事例の指導で終わってしまっては「そのつどの問題を1つ1つ自分の腕力で行う」のと大差はない。推進側もある時期からはたくさんの事例の指導の忙しさにかまけていてはいけないのだ。しくみに働きかけて「品質工学で考える」のがアタリマエになるようにもっていくのが最終的な役割だ。理想はヒーローが活躍せずとも、一人一人の思いが強く、粛々と生産性の高いアウトプットが出る職場である。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

つるぞうさん

ダムが決壊したように発言されましたね。
どんな心境の変化かわかりませんが,貴方の趣味や人間として生きる思いがよく伝わってきて素晴らしいですね。
このようなブログは貴重だと思います。
どれだけの人がアクセスするかは分かりませんが楽しみですね。
立林さんが貴方と同じようにジャズの世界で頑張っていますが品質工学に興味がある人間はアートの世界でも一流ですね。
昨日と一昨日の二日間P電工でパラメータ設計入門のセミナーを行ってスタタパルト実験をやりました。
技術者が望んでいるのはパラメータ設計の手法に興味があるのです。
手法だけの勉強なら若手だけで十分なんですが,私のような老人が出る幕ではないのです。セミナーで直交実験を学んでも職場に帰ると忘れてしまって,従来の仕事のやり方に戻るだけだと思います。砂上の楼閣だと思いますがこのような教育を続けているのが現状です。ほかの指導している企業では,マネージャーが中心でやっていますからまだ見込みがあるのです。
貴方も言われているように,直交実験によるパラメータ設計が品質工学だと考えていることが問題ですね。「実験は失敗して初めて意味があるのだ」と言えばますます驚いてやらなくなると思います。何のためにやるのか目的が分かっていないのです。品質工学の心技体が企業の中で根付くことは大変なことです。
今日はこの辺で。

つるぞう さんのコメント...

いつもありがとうございます。
ダムが決壊したようにとは言い得て妙ですね。
Kazz先生の品質工学の心技体の話は、製作所の新人向けの品質工学講座で話したら結構好評でした。若い人のほうが感性が鋭いのでしょうね。

匿名 さんのコメント...

心境の変化大変喜ばしいことです。
北海道の屈斜路湖やラベンダーなど思い出の深い風景です。私は15年くらい前ですが,札幌から北見や摩周湖や釧路地方を車で走った思い出が蘇ってきます。当時はスケッチをやっていなかったので写真しか残っていませんが,速度違反(時速50Kmのところを20Kmオーバーで1万5000円罰金を警察に収めた苦い思い出があります。
品質工学は理想論だという人がいますが,Artの世界でも理想を追求することは大切ですね。

匿名 さんのコメント...

つるぞうさん

品質工学戦略発表大会が11月に行われることはご存知ですね。会長は役員に発表を強制されていますが,公募をしても登録はあまり期待できないために役員に指示されたのだと思います。この大会の目的は品質工学の普及は企業のトップやマネージャーや教育関係者などに関心を持ってもらうために開催するものですが,私は知恵がないので辞退しようと考えています。貴方のような若くて能力の高い技術者が発表する方がはるかに説得力があると思いますがどうですか。