ある方に、田口博士の「タグチメソッドわが発想法」もよく読むように、と言われていたので、初心者のころに読んだのを引っ張り出してきた。
やはり気になるのはSN比の記述、ということでp.159.
「例えば40デシベルとは、出力の中で信号の大きさがノイズの大きさの1万倍に当たるときである。」
とある。
そのあと、動特性の事例としてステアリングの話が出てくるので、これは動特性に対する記述であろう(もちろん静特性でも同様の議論は成り立つのだが)。
田口博士の動特性のSN比の基本式は、β^2/σ^2 である。これはp.166にも説明されている。しからば、あるβのデータに対して、データを取る範囲を狭く(または小さく)した場合のσは小さく、範囲を広く(または大きく)した場合のσが大きくなる(これは数理的にというより技術論として)。その場合に、β^2/σ^2が絶対値としての安定性の尺度として意味を持たないのは自明である(なので、信号範囲が比較対象間でそろっているときのみ、その利得は意味があり、そのような場合で使用できることも周知である)。
さて、上記p.159の記述は何を意味しているか。「信号の大きさ」「ノイズの大きさ」はそれぞれエネルギーやパワーを示していると考えて差し支えなかろう。つまり、信号の反応である「有効なエネルギー成分」と、ノイズの反応である「有害なエネルギー成分」の比のことであろう、
SN比の計算の世界では、このエネルギー(パワー)とは、データの2乗(和)であらわされる。すなわち、「有効なエネルギー成分」は出力のうち、有効な変動の2乗和であり、Sβという記号で表される。また、「有害なエネルギー成分」は出力のうち、有害な変動の2乗和であり、SNという記号で表される。
つまり、冒頭の表現は、Sβ/SN=10000 と言っているのである。このSβやSNに何の補正もかけずに、常用対数をとって10倍してみよう。10log(Sβ/SN)=40db となる。つまり冒頭のSN比の説明は、われわれがエネルギー比型SN比と言っているものである。すでに数10年前の田口博士の著書(「統計解析」など)にはこの式の記載があり、これはSN比の原義、原点なのではないかと考えられる。このSN比の特徴については以前の記事で述べた次第で、一定の価値を確信している。
なお、本章のステアリングの事例で、信号である操舵角が小さい場合と大きい場合の機能性二間して別々に議論されているが、制御因子が共通の場合は1つの評価尺度が必要で、そのような場合は「総合損失SN比」で評価できることをQES2010で提言させていただいている。
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