2017/03/13

エネルギー比型SN 比の解説⑦

4.2. 従来のSN比の課題(2)~データ数による影響~
3.3で述べたように、従来の標準SN比はnk-1(データ数-1:誤差分散の自由度)に比例する。つまり、データ数の違いによって、SN比が公平に比較できないケースがありうる。いっぽう、エネルギー比型SN比は、式の形から分かるように分子のSβと分母のSNはいずれも単純な平方和の形をしており、サンプル数分の2乗の和を表している。したがって、これらの比であるSN比はデータ数の違いによる影響を受けにくい
従来の標準SN比と、エネルギー比型SN比を比較するために、検証をおこなった。エネルギー比型SN比を標準SN比として使用する場合は、新しい信号として標準条件N0の出力をとる点が従来と同様で、式の形はSβ/SNで共通である。データの種類によってエネルギー比型SN比の形や考え方が変わらない利点については4.3で改めて述べる。

異なる2種類の引張試験装置にて接合部の機能の安定性(変位-荷重特性の安定性)を比較する場合11)を考える。この評価では、入力信号(変位)の範囲やノイズ因子の水準(8水準:4サンプルの新品条件と劣化条件)は共通であるが、引張試験装置によって、入力信号である変位の水準間隔が異なっており、信号因子水準が異なる。その結果両者で、全データ数が異なる。ただし、本節のSN比の比較検証では同一サンプル・同一試験装置において、信号因子水準数k=20の試験結果と、そこからデータを均等に間引いてk=5としたものを比較した。これは、引張試験は破壊試験のため、同一サンプルを2つの異なる引張試験機でデータ取得することはできないためである。データを図表4.2.1に示す(k=20の場合は全データを使用し、k=5の場合はハッチングのデータを使用、単位省略)。



同一サンプルでk=20の場合とk=5の場合で、従来のSN比とエネルギー比型SN比を比較した結果を図表4.2.3に示す。


 k=20の場合とk=5の場合は、いずれも同一サンプル・同一試験装置のデータであるので、入出力の傾きの変動に大きな差はない。信号水準数が変化したとしても、安定性の尺度であるSN比はほぼ同じ値になるべきである。上の結果から分かるように、従来の標準SN比の場合は、同一サンプルにも関わらず、SN比に約6dbの差が発生する。これは信号水準数(データ数)が4倍異なるためである。いっぽう、エネルギー比型SN比の場合は、差は-0.1dbと微小である。なお、エネルギー比型SN比で両者のSN比が完全に一致しないのは、間引いたデータによる影響であり、k=5でどのデータを選択するかに依存するものである。ちなみに、全く線形なデータの場合は信号水準数によって(どのデータを間引くかによって)エネルギー比型SN比の値が変化することはない。
 以上のように、従来の標準SN比はデータ数の影響を強く受けるため、実際に機能の安定性が異なる対象間で比較を行う場合は、データ数の違いによって機能の安定性とSN比の値が逆転する可能性があることに留意する必要がある。エネルギー比型SN比ではデータ数をそろえる手間は無用である。信号水準数等が異なる場合でも、対象間をより公平に比較することができる

4.2節補足
 このようなデータ数が比較対象間で異なりうるのは特殊なケースではない。以下のような例がある。
・入力信号に時間をとって、一定時間間隔でデータを取得する場合9)に、比較対象間で処理(動作)時間が異なると、データ数が変化する。
MT(マハラノビス・タグチ)システムにおいて、推定精度をSN比で評価する際に、データセット間でサンプル数が異なる場合10)がある。
・転写性の評価において、有限要素法などのシミュレーションを使用する場合、比較対象間でモデルのメッシュが異なることで、頂点数が変化することが想定される。これによって信号因子である頂点間の距離数も変化する。

参考文献
9) たとえば、矢野, 西内, 小山, 北崎, 木村:「医薬品の噴霧乾燥の品質工学による機能性評価」, 『品質工学』, 5, 5, (1997), pp.29-37.
10) たとえば、矢野,早川:「MTシステムによる地震の予測の可能性の研究」, 『標準化と品質管理』, 62, 7, (2009), pp.27-40.
11) 鶴田, 太田, 鐡見, 清水:「新SN比の研究(1), 『第16回品質工学研究発表大会論文集』, (2008), pp.410-413.

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